大企業協業でスケーラビリティを犠牲にしない——MUFG×スタートアップ2社が語る共創の本音

2026.01.09

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MUFG のオープンイノベーションが加速している。スタートアップのプロダクトを顧客として活用する「ベンチャークライアントモデル」、出資による関係構築、そして買収によるグループイン——3つのアプローチで連携を深める同グループ。先日開催された MUFG スタートアップサミットでは、リーガルテックの MNTSQ(モンテスキュー)、レベニュー・ベースド・ファイナンシング(RBF)を提供する Yoii(ヨイ)の2社と、MUFG 側の担当者が登壇し、協業の舞台裏を語った。

ビッグテック時代、スタートアップに何を期待するのか

MNTSQ 代表取締役 板谷隆平氏

MNTSQ は、四大法律事務所のうち三社とのパートナーシップのもと、AI による契約業務の変革に取り組むリーガルテック企業だ。代表取締役の板谷隆平氏自身が長島・大野・常松法律事務所の弁護士であり、同事務所のデータを活用した学習モデルを構築している。売上高1兆円以上の企業のうち約35%が同社の顧客となっており、エンタープライズ向けにAIソリューションを提供し着実に成長を遂げている。

しかし板谷氏は、IT スタートアップを取り巻く環境が3年前から激変したと指摘する。

3年前に ChatGPT が登場して、ゲームの構造がガラッと変わってしまいました。以前は AI といえばスタートアップの独壇場でしたが、今やマイクロソフトやグーグルといった、我々が『絶対に戦いたくない』と思っていた大手が AI を手にしてしまった。皆さんが IT スタートアップと何かやろうと思ったとき、まず触るのは ChatGPT でしょう。では、スタートアップに一体何を期待するのか。我々は今、それだけ難しい状況にあるのです(板谷氏)。

生成 AI を活用するには自社データが重要だという議論は正しい。しかし、それなら自社で内製すればいいのではないか——この問いにどう立ち向かうかが、スタートアップにとっての課題だと板谷氏は語る。

MNTSQ が見出した答えは、弁護士集団としての専門性だった。データから正しい示唆を導き出し、それを抽象化してプロンプトに変換する。MUFG で最も契約に詳しい担当者が行うような契約交渉を、AI で再現するためのプロンプトを作れるのは自分たちだけだという確信があった。

現在、MUFG の法務部門では法務相談案件をすべて MNTSQ 上で処理している。法務相談を受け、ディスカッションし、回答する——その一連の業務データが MNTSQ に蓄積されていく。このデータをどう活用すべきか、MNTSQ の弁護士チームと共に分析し、仕組みに変えていく取り組みが進んでいる。

新アセットクラス「RBF ファンド」を金融機関と共に作る

Yoii CEO 宇野雅晴氏

Yoii は、スタートアップや中小企業向けにレベニュー・ベースド・ファイナンシング(RBF)という新しい資金調達手段を提供するフィンテック企業だ。CEO の宇野雅晴氏は広告業界からペイメント領域のフィンテック、そして暗号資産領域でトークナイゼーションを手がけてきた経歴を持つ。

同社のサービスは、顧客から会計情報や売上情報を連携してもらい、AI でデータ分析を行ってスコアリングし、融資条件を提示するというものだ。将来債権譲渡のスキームを活用し、最大3億円を比較的早く提供できる点が特徴となっている。

RBF は株式調達と異なり、ローリスク・ローリターンの性質を持つ。そのため、VC のリスクマネーではなく、別の資金源が必要となる。宇野氏は三菱UFJ信託銀行と相談し、ファンドを組成するという選択肢にたどり着いた。

RBF は新しいアセットクラスなので、組成にはいろいろな工夫が必要でした。そこで信託銀行さんにスペシャリストとしてアドバイスをいただきながら進めました(宇野氏)。

三菱UFJ信託銀行の鶴岡秀規氏は、自社で取り組まなかった理由をこう説明する。

まず、AI を使ったスコアリングのノウハウが社内にありませんでした。また、Yoii さんの場合は比較的アーリーステージのスタートアップに資金供給を行っています。正直なところ、金融機関がスタートアップ向け資金供給を行うのはまだまだ難しい側面もある。そうした背景もあり、今回ファンドという形で取り組ませていただきました(鶴岡氏)。

ファンドには三菱UFJ信託銀行の他にも地域経済活性化支援機構、FFGベンチャービジネスパートナーズなども参加し、2025年1月から運用を開始している。

構想から具体化までの長い道のり

三菱UFJ信託銀行 法人マーケット統括部 副部長 兼 法人事業開発室長 鶴岡 秀規氏

大企業とスタートアップの協業は、決して最初から順調だったわけではない。三菱UFJ信託銀行が Yoii に出資したのは2022年9月頃。当初からファンド組成の構想はあったものの、そこから約1年間、具体的な進展がなかったと鶴岡氏は明かす。

もちろんスタートアップ側の Yoii も手をこまねいていたわけではない。

ただ、日々の経営課題に追われていた。社内トラブルの対応、退職者の穴埋め、新メンバーのオンボーディング——そうした業務をこなすうちに時間が過ぎていった。

宇野氏は「ずっと頭の中では連携を考えていたが、大企業側も人をアサインする必要があり、こちらにもリソースがなかった。スタートアップとしては1年があっという間に過ぎ、経営課題としての優先度が上がった瞬間に、ようやくお願いできた」と振り返る。

大企業側にも事情がある。

鶴岡氏によれば、新規事業開発チームは社内で「ど真ん中ではない」存在だ。味方が少ない中で、関係部署を説得し、納得してもらう作業が続く。今回も協力的な部署はあったものの、仕事の進め方の違いからフラストレーションが溜まっているのは明らかだった。

間に入ってガス抜きをするなど、コミュニケーションのコストをかなりかけて進めていきました(鶴岡氏)。

宇野氏もまた、大企業との協業では相手の流儀に合わせる努力が欠かせないと語る。仕事の進め方や組織のプロトコルが違うことを理解し、ドキュメンテーションの作法やミーティングの開き方も、なるべく相手に寄り添うようにしていたという。

戦略出資を受ける判断基準

左から)三菱UFJイノベーション・パートナーズ(MUIP) Chief Investment Officer の佐野尚志、MNTSQ 代表取締役の板谷隆平氏、Yoii CEO の宇野雅晴氏、三菱UFJ信託銀行 法人マーケット統括部副部長 兼 法人事業開発室長の鶴岡秀規氏

MUFG はスタートアップへの出資も積極的に行っている。CVCの運用総額は現在グローバルで約800億円規模、また三菱UFJ信託銀行も数百億円規模のスタートアップやファンド出資を展開しており、常にオープンイノベーションのパートナーを探している。では、出資を受ける側のスタートアップは、どのような判断基準を持っているのか。

MNTSQ の板谷氏は明快だ。

シンプルですね。そのアカウントを攻略したいかどうかです。我々は大企業向けの会社なので、日本のキーとなるアカウントをどれだけ攻略できるかが最も重要です。攻略したいアカウントから出資をいただけるということは、一定のコミットメントをいただけて、社内でプロダクトを使っていただける可能性があるということ。迷うことなくお願いしたいです(板谷氏)。

一方で、「色がつく」リスクについても考慮する。ある企業から出資を受けることで、競合関係にある別の企業への営業が難しくなる可能性があるからだ。

Yoii の宇野氏は、より慎重な姿勢を見せる。

CVC や事業会社から出資を受ける場合、事業シナジーを求めて出していただいているはずです。だからこちらも、どんな事業シナジーを生み出せるかをしっかり考えます。そして、それが自社のやりたいことと合致しているかどうかがとても重要です。出資をいただけるからといって、自社の戦略や目指すべきノーススターを変えるようなことはしない方がいい。出資いただいたものに対して戦略的リターンをしっかりと返せるのかを冷静に見ています(宇野氏)。

現在、Yoii には三菱UFJ信託銀行から2名が派遣されている。1人は審査機能の強化、もう1人は営業強化を担っており、出資関係が人材交流にまで発展した好例といえる。

日本のスタートアップは岐路に立っている

セッションの最後、板谷氏は日本のスタートアップエコシステムへの危機感を率直に語った。

日本のスタートアップは、まだ社会にインパクトを出せていません。優秀な人材を集め、資金を調達して事業をする。その根底には、1,000億円、3,000億円、いや1兆円規模のビジネスを作る可能性があるという社会からの期待があります。しかし現実を見ると、例えば今ソフトウェアスタートアップの売上は大きくても数百億円程度です。我々は一体何者なんだろうか。それをこれから証明できるのか。今、そういうフェーズにあると思います(板谷氏)。

大企業との協業において、スタートアップが陥りがちな罠がある。大企業の案件が欲しいあまり、個社ごとにカスタマイズした製品を作ってしまうことだ。

それをやってしまったら、絶対に我々は成長できません。大企業と提携することでスケーラビリティが損なわれないか。個別の作り込みによって、本当にやりたい仕様や作りたい世界観が損なわれないか。スタートアップの経営者は最後の最後まで見極めなければならなりません(板谷氏)。

板谷氏が MUFG との協業で評価しているのは、まさにこの点だ。

MUFG の担当者は、MNTSQ のビジネスモデルのスケーラビリティをすごく意識してくださいました。『こういうリクエストをすると、MUFGにとっては良くても、MNTSQの事業は伸びなくなるな』ということを考えてくださっている。それが成功の秘訣だったのかなと、今振り返って思います(板谷氏)。

鶴岡氏は大企業側へのメッセージとして、「いきなりフルスペックのものを求めず、小さく作るところから始めることを社内で認めていただくことが重要」と語った。一方でスタートアップ側には「稟議やコンプライアンス、セキュリティといった大企業特有の要件は必要なものだと理解し、寄り添っていただきたい」と求めた。

大企業とスタートアップ、それぞれの強みを生かしながら、互いの制約を理解して歩み寄る——オープンイノベーションの成功には、そうした地道な協働が欠かせない。

大企業協業でスケーラビリティを犠牲にしない——MUFG×スタートアップ2社が語る共創の本音