ステーブルコインで国際決済を変革——StraitsX が描く金融インフラの未来

2025.12.26

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StraitsX Co-Founder & CEO の Tianwei Liu 氏

東南アジアのフィンテック企業の中でも、StraitsX は際立った存在感を放っている。同社はブロックチェーン技術を活用したステーブルコイン決済インフラを提供し、国際送金や観光客決済といった実用的なユースケースで、この地域におけるデジタル通貨の認知度と普及率の向上に尽力するスタートアップだ。

シンガポールを拠点に置く StraitsX は、CEO の Tianwei Liu 氏と CTO の Victor Liew 氏によって、前身となる Xfers として2016年に設立された。2人は、東南アジアの決済インフラが抱える根本的な課題に危機感を抱いたという。

StraitsX は現在、東南アジアのデジタル金融サービスグループである Fazz の一員として事業を展開している。2021年3月、Tianwei氏が創業した Xfers と、インドネシアで金融包摂事業を展開する PayFazz が統合し、Fazz Financial Group が誕生した。両社はともに Y Combinator 出身で、東南アジアにおける金融アクセスの拡大という共通のビジョンを持っていた。

StraitsX はデジタル資産およびステーブルコインに特化した決済インフラを運営しており、暗号資産企業と従来型金融機関に規制準拠の国際決済機能を提供している。


2015年頃、Bay Areaで6年働いた後に 東南アジアに戻った際、この地域にはピアツーピア決済を行うための便利な方法がありませんでした。友人が Kindle の購入を頼んできたのですが、支払い方法がなく、銀行振込には2日以上かかり、誰が送金したのかも分からない状態でした(Tianwei氏)。

StraitsX は AI やデジタル化を駆使し、ステーブルコインの発行から国際決済、カード発行に至るまでのプロセス全体を最適化。規制に準拠した信頼性の高いインフラを提供することで、広く一般消費者や企業の生活にステーブルコインを浸透させようとしている。

ステーブルコイン事業への参入——規制当局との9ヶ月の対話

当初、Xfers として決済 API サービスを提供していた同社は、2019年にシンガポール金融管理局(MAS)から e-money ライセンスを取得。フィンテック企業としては初の快挙だった。この実績が、ステーブルコイン事業への道を開いた。

2019年に e-money ライセンスを取得した後、暗号資産取引所の顧客が増え、彼らがブロックチェーンネイティブで、かつオンチェーンで決済できるソリューションを必要としていることが分かりました。そこで MAS に対し、ブロックチェーン上で e-money を発行したいと提案したのです(Tianwei氏)。

MAS との9ヶ月に及ぶ協議を経て、2020年に StraitsX ブランドで シンガポールドルステーブルコインであるXSGD を正式にローンチ。シンガポール政府の先見的な姿勢が、この革新を可能にした。

2021年から2022年にかけて、MAS は私たちに連絡してきて、ステーブルコインの実用化に向けて一緒に取り組みたいと言ってくれました。そして Project Orchid が始まり、最終的には本格的なステーブルコインライセンス制度へとつながったのです(Tianwei 氏)。

現在、StraitsX は XSGD に加え、2024年に米ドル連動の XUSD もローンチ。XSGDのCoinbase への上場や、主要取引所での取扱いを通じて、グローバルな展開を加速させている。

リアルタイム決済と即時決済——従来の国際送金の課題を解決

従来の国際決済では、カードでの支払い確認はリアルタイムで行われるものの、実際の資金決済には数日から数週間かかるのが常だった。この時間差が、加盟店の資金繰りや為替リスクの問題を引き起こしていた。

国際決済において、決済の確認と実際の資金の移動は別のプロセスです。カフェで Visa カードをタップすると確認は即座に行われますが、実際の決済には数日かかることもあります。加盟店は資金を受け取るまでの間、流動性の問題を抱え、為替変動のリスクも負わなければなりません(Tianwei氏)。

ステーブルコインは、この構造的な問題を根本から解決する。ブロックチェーン技術により、通信と決済が一体化されるからだ。

ステーブルコイン決済は、通信と決済が一度に完了します。Alipay Plus のユーザーが Grab 加盟店の QR コードをスキャンすると、裏側で Alipay がユーザーの人民元やマレーシアリンギットを使ってシンガポールドル・ステーブルコインを購入し、リアルタイムで Grab 加盟店のブロックチェーンアドレスに送金します(Tianwei氏)。

この仕組みにより、2023年からシンガポールで稼働している Grab との提携では、観光客が母国の e-wallet を使ってシンガポール国内の加盟店でシームレスに支払いができるようになった。決済は即座に完了し、加盟店には当日または翌営業日に資金が届く。

小規模チームでグローバル展開——AI ネイティブ企業の強み

StraitsX の特徴の一つは、約200人という少数精鋭体制で、年間300億〜400億ドルの処理額を実現している点だ。AI を積極的に活用することで、効率的な組織運営を可能にしている。

同社が重視するのは、自発的に動ける人材の採用だ。Tianwei氏は採用時に必ず「なぜこの会社で働きたいのか」を問う。

ほとんどの場合、ここで働くということは、通常の2倍働き、かつすぐにはリターンが得られない可能性があるということです。それでも来たい理由を答えられることが重要です。ここで成功する人たちは、金融業界に影響を与えたいと考えている人たちです(Tianwei氏)。

実際、Tianwei氏自身も銀行や決済業界での経験はゼロからのスタートだった。Amazon でソフトウェアエンジニアとして働いた後、2016年に Y Combinator に参加して Xfers を創業。学習意欲と実行力だけを武器に、未知の領域に挑戦してきた。

2021年3月、Xfers はインドネシアの PayFazz から3,000万ドルの戦略的投資を受け、Fazz Financial Group が設立された。Fazz Financial Groupは2022年9月にはシリーズ C で1億ドルを調達し、Tiger Global、DST Investment、B Capital、Insignia Ventures Partners などの著名 VC が参画した。

StraitsXは2023年に日本の NTT DOCOMOからの資金調達を、その後2025年には  UQPAY から1,000万ドルの資金調達を発表。これらの資金を使って、現在シンガポール、インドネシア、タイ、ベトナムで展開している事業を、東南アジア全域、さらには日本へと拡大することを計画している。

特に注力しているのが、QR コード決済ネットワークの拡大だ。Grab に続き、インドネシアでは Fazz のエージェントネットワーク、フィリピン、マレーシアへの展開を予定している。

シンガポールの Grab との提携に続き、マレーシア、フィリピンでも近日中に発表できる予定です。インドネシアは PayFazz を通じて、タイは PromptPay、マレーシアは DuitNow、フィリピンは InstaPay といった各国の QR コード決済網と接続していくロードマップを描いています(Tianwei氏)。

三菱 UFJ フィナンシャル・グループとの協業に期待

MUIP CIOの佐野尚志、StraitsX Co-Founder & CEO の Tianwei Liu 氏

Tianwei氏はMUIPを投資家として迎えた理由の一つとして、チームとして信頼できるパートナーだと感じたことだと語る。投資家が戦略的且つ長期的な視野を持ち、ビジネス拡大に向けて適切な支援をし続けてくれることがスタートアップの成長にとって非常に重要な点だと述べた。

またもう一つの大きな理由として、日本市場における協業の可能性について言及した。米国で GENIUS Act(ステーブルコイン規制法)が成立し、日本でも規制整備が進む中、StraitsX は自社の実績を日本で活かせると考えている。

規制対応が必要なビジネスには時間がかかります。来月10倍成長を実現したいと思っても、実際には3〜4年かけてようやく到達するものです。シンガポールでの実績を踏まえ、MUFG と一緒に日本でステーブルコインを発行したり、実用化を推進したりすることに大きな可能性を感じています。私たちはこのビジネスを5年間運営してきたので、収益構造や失敗しやすいポイント、注力すべき部分を深く理解しています(Tianwei氏)。

具体的には、日本市場での Scan & Pay ネットワーク展開を視野に入れている。台湾とアメリカを拠点とする HIVEX 社が WeChat Pay と PayPay 加盟店を接続するプロジェクトを進めており、StraitsX はステーブルコイン発行者として協業の可能性を探っている段階だ。

日本市場では、Grab の既存ユーザーが日本で PayPay 加盟店を利用できる仕組みの実現を目指しています。また、MUFG との銀行関係を日本で構築し、日本円を受け取れる体制も整えたいと考えています(Tianwei氏)。

StraitsX によるテクノロジーとイノベーションへの果敢な挑戦は、東南アジアから世界へと広がるステーブルコイン決済の民主化を着実に進めることになるだろう。

ステーブルコインで国際決済を変革——StraitsX が描く金融インフラの未来