
Fazz Financial Group 創業者兼グループ CEO の Hendra Kwik 氏 東南アジアのフィンテック企業の中でも、Fazz は際立った存在感を放っている。同社はテクノロジーを活用し、従来の銀行サービスが行き届かない地域の人々に金融アクセスを提供することで、この地域における金融包摂の実現に尽力するスタートアップだ。
インドネシアを拠点に置く Fazz Financial Group は、CEO の Hendra Kwik(ヘンドラ・クウィック)氏によって2016年に PayFazz として設立された。その後、2021年にシンガポールの Xfers と統合し、現在の Fazz Financial Group となった。Kwik 氏は、インドネシアをはじめ東南アジアの国々で、銀行サービスへのアクセスが十分に行き渡っていないことに危機感を抱いたという。
Fazz は現在、東南アジア全域でデジタル金融サービスを展開するグループ企業へと成長している。
2021年3月、Hendra氏が創業した PayFazz と、シンガポールで決済インフラ事業を展開していた Xfers が統合し、Fazz Financial Group が誕生した。この統合では、PayFazz が Xfers に3,000万ドルを戦略投資する形で実現。両社はともに Y Combinator 出身であり、東南アジアの金融包摂という共通のミッションが統合の原動力となった。
Hendra 氏はグループ CEO として全体を統括し、Xfers 創業者の Tianwei Liu 氏が Deputy CEO を務める。グループは4つの事業で構成される。インドネシアの小規模店舗向けネオバンク「Payfazz」、事業会社向けネオバンク「Billfazz」、消費者向けネオバンク「Faza」、そしてグローバルでステーブルコイン事業を展開する「StraitsX」だ。
PayFazz のインドネシア農村部でのエージェントネットワークと、StraitsX の決済・ステーブルコイン技術という2つの強みを併せ持つことで、Fazz は東南アジア全域で2億9,000万人とも言われるアンバンクト層への金融アクセス提供を加速させている。
私が育った村では、大手銀行が支店を置くことはほとんどありませんでした。私の両親も銀行サービスにアクセスすることができませんでした。大学のある大都市に行って初めて、銀行支店がいたるところにあり、人々が銀行商品について教育を受けていて、それが経済発展と成長を生み出していることを目の当たりにしました。私の故郷では見られなかった光景です(Hendra氏)。
Fazz はデジタル化を駆使し、決済から送金、融資、貯蓄に至るまでの金融サービス全体を最適化。日常的に必要とされる金融サービスを低コストで提供することで、広く「アンバンクト」層の生活に金融を浸透させようとしている。
村の小規模店舗を金融アクセスポイントに

Hendra 氏が Fazz(当初は PayFazz)を立ち上げるきっかけとなったのは、ラテンアメリカから帰国した際の体験だ。
ブラジルから帰国して、通信カードをチャージしようとしたのですが、それも難しかったのです。インドネシアでは小規模店舗を通じてチャージができました。そのとき、私の故郷の状況を思い出したのです。もし小規模店舗を、通信製品や銀行商品にアクセスできる場所に変えるテクノロジーを構築できたらどうだろうと(Hendra氏)。
従来、インドネシアの通信製品のリチャージや金融サービスを利用するには、通信会社や銀行の支店に行く必要があった。しかし PayFazz では、全国の小規模店舗(ワルン)をデジタルプラットフォームでつなぎ、そこで通信製品のリチャージや送金サービスを提供できるようにした。この小規模店舗とは、インドネシア国内に根づいている小さな家族経営の商店のことだ。コンビニのように日用品を扱うだけでなく、気軽に食事ができる場所としても利用されている。
最初はモバイルキャリアのデータ通信のリチャージサービスから始めました。日本でも同じような問題があると思いますが、人々は通常セブンイレブンのようなコンビニでデータ通信をリチャージします。私たちは小規模店舗を、データ通信がリチャージできる場所に変えるシステムを作りました(Hendra 氏)。
その後、ユーザーからのフィードバックを受けて、送金機能や現金引き出し機能を追加。しかしサービス開始から数カ月後、ライセンスを取得していなかったために中央銀行から業務停止を命じられた。この経験が、同社を本格的な金融機関へと成長させる転機となった。
そこで私たちは、トラクションのあるこのスタートアップのアイデアを、よりプロフェッショナルで制度化されたものに変える必要があることを認識しました。Y Combinator に入ることで、プロダクトを制度化する方法を学ぼうとしました。インドネシア初の Y Combinator 支援スタートアップの1社として採択されたのです(Hendra 氏)。
Y Combinator から得た資金で会社を制度化し、金融サービスライセンスの取得を進めた。当時26歳前後だった Hendra 氏らは、銀行業界での経験がなく、中央銀行からの信頼獲得に苦労したという。
中央銀行が見たのは、私たちが実際に社会に利益をもたらしているという事実でした。従来は経済的に送金できなかった人々が、私たちのプラットフォームを通じてできるようになったのです。私たちがプラットフォームを通じて社会に前向きなインパクトを提供したという事実が評価されました(Hendra氏)。
現在、Fazz はインドネシアで送金、P2P レンディング、バンキングアグリゲーター、マルチファイナンス、電子マネーなど複数のライセンスを取得。時間をかけて中央銀行からの信頼を構築し、段階的にライセンスを拡大してきた。
教育によるアプローチが生む競争優位性

現在、Fazz Financial Group は2021年の統合により、PayFazz のインドネシア農村部向け金融サービスと、Xfers のシンガポール発ステーブルコイン技術という2つの強みを併せ持つ企業となった。
競合他社との差別化について、Hendra 氏は小規模店舗を活用した教育アプローチの重要性を強調する。
デジタルファーストのアプローチで展開している多くのプラットフォームはすでに利用可能ですが、キャッシュバックやクーポンがあっても、アンバンクト層はそれらを使っていません。問題はプラットフォームやクーポン自体ではなく、製品への理解が欠けているということです。
私たちは小規模店舗を金融サービスエージェントや銀行エージェントとして活用し、顧客を教育することでこれを解決しようとしています。おそらく数十の金融サービスアプリ、ウェルスマネジメント、デジタル銀行、BNPL 製品がありますが、これらのアプリは人口の上位20〜30%しか攻略できません。私たちが考えているのは残りの市場、1億5,000万から2億人はいまだに非公式なサービスを利用しています(Hendra氏)。
Hendra 氏によると、これらの層は高額な非公式送金サービスを利用し、高金利のローンショップから借り入れ、オンラインギャンブルに資金を使っている。これは教育の欠如が原因だという。
同社のアプローチは、ネオバンクアプリの開発だけでなく、金融サービスエージェントや銀行エージェントのネットワーク構築にある。彼らが小規模都市のアンバンクト顧客を教育し、製品を使えるようにすることで、アプリや製品が実際に使われ、顧客の生活に変化をもたらしている。さらに、ユーザーに近い姿勢を保つことも重視している。
Y Combinator から得た最初のスタートアップ教育は『人々が欲しいものを作る』ということです。しかしオフィスに座っているだけでは、人々が欲しいものを作ることはできません。市場に出向く必要があります。私たちの場合、農村市場なら村に行き、小規模店舗に行き、銀行商品を持たない村人たちと一緒にいる必要があります。村人が製品を理解できないなら、シンプルに使えるようにし、使い方を教育することが私たちの仕事です(Hendra 氏)。
組織文化とさらなる革新、MUFG との協業

Fazz の組織文化について、Kwik 氏は3つの重要な要素を挙げる。第1に、ユーザーファーストであること。第2に、若い世代への投資。第3に、行動志向だ。
スタートアップは非常にペースが速く、ダイナミックな環境です。若い世代に常に投資する必要があると考えています。もちろん中堅層の人材もいますが、彼らは24歳で当社に入社し、9年間働いて33歳になった人たちです。つまり、若い世代に投資し続けてきたということです(Hendra氏)。
行動指針については、Y Combinator の教えを引用する。
Y Combinator は常に言います。製品をローンチするのに2年かかるなら、問題です。2日で答えを出すべきですし、遅くとも2週間から2カ月以内には実現する必要があります。私たちに必要なことは、どれだけ洗練されたコードを使っているかではなく、どれだけ速く製品を提供できるか、そしてその製品がすぐにユーザーに影響や成果を生み出せるかです(Hendra氏)。
Fazz は三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の戦略的パートナーとして、インドネシアでの事業を加速させている。特に MUFG 傘下の Danamon 銀行との連携が重要だ。
私たちはネオバンクなので、銀行サービスを提供しますが、必ずしも銀行になる必要はありません。提供するすべての製品は非銀行商品です。一方、MUFG は Danamon という子会社を持っており、そこにはすべて銀行商品があります。MUIPが参加することで、私たちが持っていない製品を銀行パートナーを通じて得ることができました(Hendra氏)。
現在、Fazz は 国営銀行のBRIと Danamon という2つの戦略的銀行株主を持つ。民間セクターの MUFG とは、国営銀行の BRI に比べてより機動的に連携できるという。主要な協業実績として、BI Fast 技術による送金・資金移動の高速化と、QRIS(インドネシア統一 QR 決済)の展開がある。QRIS では実装に2カ月以上を要したものの、稼働後3カ月で100万ドルの取引を達成した。
Hendra 氏は、スタートアップとコーポレートのスピード差を認識しつつ、MUIP がその橋渡し役を果たしていると評価する。今後の展開として、MUIP を通じて MUFG のタイ、フィリピン、日本などの他のグループとの連携を模索することで、Fazz がステーブルコインやネオバンクで拡大する際に同様のパートナーシップが生まれる可能性があるという。
新しいテクノロジーやスタートアップワークの競争において、先駆者となることやスピード感は非常に重要です。私たちの提供するサービスは、銀行と緊密に協力する必要がありますが、私たちは銀行を所有しておらずパートナーが必要です。MUIP は確実にこれらの銀行パートナーへのネットワークを開く手助けとなっており、それは私たちの戦略にとっても非常に重要ですし、スピード感についても、更に良くなる可能性があると思っています。将来的には、2年や2カ月ではなく、2週間で物事を実現できるよう願っています(Hendra氏)。
Fazz によるテクノロジーとイノベーションへの果敢な挑戦は、東南アジアにおける金融包摂を着実に進めることになるだろう。小規模店舗を通じた教育アプローチとステーブルコイン技術の組み合わせにより、同社はアンバンクト層により多くの金融アクセスと機会を提供し続けている。