CARSOMEグループと三菱UFJフィナンシャル・グループの一員であるJACCSが戦略的パートナーシップを締結し、CARSOME Capitalを通じて東南アジア自動車ファイナンス市場の革新に乗り出す。
JACCSはCARSOME Capitalの49%の株式を取得し、CARSOMEの持つ強力なエコシステムとJACCSの金融ノウハウを融合させることで、特に十分なサービスを受けられていない層に向けた革新的な金融ソリューションを提供する。両社幹部へのインタビューから見えてきた、この提携の背景と展望を紹介する。
CARSOME Capitalとの提携背景
CARSOME CapitalはCARSOMEグループとして2018年に設立された自動車ファイナンスサービス部門であり、個人向け小売ファイナンス、ディーラー向け在庫ファイナンス、自動車保険ソリューションなど、包括的な自動車金融サービスを提供している。
CARSOMEの統合エコシステムを基盤とし、車両の買取・販売・メディア・整備・金融といった車の所有に関わる複数のタッチポイントをカバーしている。
高度なデータ分析と機械学習を活用して車両価格設定、在庫管理、与信評価を最適化し、特に従来の金融サービスでは十分にカバーされていない層へのリスク評価を強化している点が特徴だ。設立以来、CARSOME Capitalは約45,000件の取引に対して10億マレーシアリンギット(約300億円)以上の融資を実行してきた。
CARSOMEは2019年からの株主であるMUFG Innovation Partners(MUIP)を通じてJACCSと繋がり、自動車ファイナンス分野でのシナジーを認識したCARSOME Capitalは2024年にJACCSと戦略的協業の可能性を探り始めた。一方、JACCSはASEAN地域における事業拡大を見据え、新たな市場参入を検討していた。
東南アジア各国の経済状況、市場規模等を調査した結果、中古車販売台数やターゲットとなる中間所得層の増加が見込まれるマレーシアを候補地として選定しました(JACCS担当者)。
しかし、マレーシアのファイナンス市場は既に多数の企業が進出しており、単独での参入は困難と判断。そこでJV(ジョイントベンチャー)での参入を模索していたところ、MUIPからCARSOME社CEOのエリック・チェン氏を紹介されたことが今回の交渉につながった。
CARSOMEにとっても、東南アジア最大の統合型中古車プラットフォームとして、シームレスな車の所有体験を提供するという目標に金融サービスは不可欠だった。金融は車のエコシステムの重要な部分であり、ディーラーと消費者の両方にとって車の購入をより身近なものにすることで、取引量を増加させる役割を担っている。
CARSOMEがこの提携を通じて解決しようとしている主な課題は多岐にわたる。まず、中古車の買い手や小規模ディーラーが直面する限られた融資オプションの問題を解消し、手頃な自動車ファイナンスへのアクセスを拡大することを目指している。
次に、CARSOME Capitalの融資能力を拡大しつつも、CARSOMEグループの自己資本への過度の依存を避け、持続可能な事業成長を実現する狙いがある。さらに、JACCSの専門知識を活用してリスク管理を最適化し、不良債権(NPL)を削減するなど与信評価能力の強化も重要な目標となっている。
この提携はJACCSにとっても戦略的な意味を持つ。「今回のCarsome Capitalへの出資は、5か国目となるマレーシア市場への進出による収益の獲得と、Carsomeとの戦略的パートナーシップの第一歩として、将来の成長をけん引する収益基盤を確立させる戦略的な意味を持つもの」とJACCSは位置づけている。
東南アジア自動車ファイナンス市場の可能性:「十分なサービスを受けられていない層」の実態
東南アジアの自動車ファイナンス市場、特にマレーシアは、大きな成長ポテンシャルを秘めている。CARSOME GroupとJACCSの戦略的パートナーシップが焦点を当てるこの市場について、両社の視点から見た現状と可能性を探る。
マレーシアの自動車ファイナンス市場は革新の機会に満ちている。多くの消費者やディーラーが従来の銀行からは十分なサービスを受けられていない状況だ。特に中古車ファイナンスは発展途上で、銀行は新車ローンを優先し、従来型の信用評価に依存しているため、多くの潜在的なバイヤーが対象から外れている。
JACCSは東南アジア市場を重要な成長市場と位置づけている。同社は東南アジア各国の経済状況や市場規模を調査した結果、中古車販売台数やターゲットとなる中間所得層の増加が見込まれるマレーシアを候補地として選定した。
CARSOMEが特に注目しているのは、従来の金融サービスからは「十分なサービスを受けられていない層」である。マレーシアでは、就労人口の約半数が月収5,000リンギット(約16万円)未満であり、新卒者、ギグワーカー、ブルーカラー労働者など、新車のファイナンスを確保するのに苦労する層が含まれている。
CARSOME Capitalはこれらの消費者向けに柔軟なファイナンスを提供し、競争力のあるレートで構造化された支払い計画を提供することで、サービスを受けられていない層の車の所有をより身近なものにしている。
また従来の銀行とは異なり、CARSOME Capitalは「バリューカー」に焦点を当てており、これには多くの場合、従来のファイナンスでは制限される古い車種も含まれる。これにより、市場の重要なギャップを埋めている。強固な信用評価モデルと独自の車両データを活用することで、CARSOME Capitalは低い不良債権(NPL)比率を維持し、持続可能で責任あるレンディングを確保している。
AIを活用した信用評価
CARSOME Capitalのファイナンスは独自の信用評価システムによって最適化される。このシステムでは、従来の信用指標に加え、CARSOMEの取引データ、車両状態レポート、市場価格動向などの代替データソースを活用し、過去の返済パターンに基づいて継続的に精度を向上させる機械学習モデルを組み込んでいる。
不良債権対策については、JACCSは「CARSOMEの持つ様々なデータと、当社の審査ノウハウを活用し、適切なリスク管理、不良債権対策を実施する」と述べている。
顧客にとっての最大のメリット
CARSOMEとJACCSの戦略的パートナーシップがもたらす新しいサービスと、それによって顧客が得られるメリットは多岐にわたる。
まず、拡張された自動車ファイナンス商品が挙げられる。より競争力のあるレートのローンが、より幅広い顧客層にアクセス可能となる。これはJACCSによる資金調達コストの低減が実現すれば、さらに魅力的な条件となる見込みだ。
また、ディーラーが在庫を拡大できるよう、より高い与信限度額と迅速なローン実行を備えたディーラーファイナンスも強化される。次に挙げられるのが、革新的な保険および保証ソリューションだ。ファイナンスと統合された自動車保険および延長保証プラン(EWP)をパッケージとして提供することで、車の購入から保有まで、顧客に包括的な安心を届けることが可能だ。「当社の資本参加に伴う安定的な資金調達により事業拡大の支援をすることで、多くのお客様にローンをご利用いただける環境を構築したい」とJACCSは述べており、金利や審査基準については「マレーシア市場の状況や顧客属性、CARSOMEの事業モデルなどを踏まえ、最適な形を検討したい」としている。
既存のCARSOME顧客にとって、この提携がもたらす最大のメリットは、自動車所有プロセス全体を通じてより統合された体験を得られることだ。融資プロセスはCARSOMEの独自の車両データと市場インサイトによって強化され、より適切な評価とローン条件につながる。
将来展望:東南アジア拡大戦略
CARSOMEとJACCSの戦略的パートナーシップは将来的な成長と拡大を視野に入れている。マレーシアでの成功を足がかりに、東南アジア全域へと事業を展開していく計画だ。CARSOMEとJACCSの戦略的パートナーシップは、マレーシアでの協業を皮切りに、東南アジア全域での自動車ファイナンス市場における存在感を高めていくことを目指している。
両社はまず、マレーシア市場でのCARSOME Capitalの事業基盤を強化することに注力する。JACCSの資本参加により確保した資金で事業規模を拡大し、融資商品のラインナップを拡充して多様な顧客ニーズに対応していく計画だ。
マレーシアでの事業基盤を固めた後は、他の東南アジア諸国への展開も視野に入れている。
この提携は地域拡大のための戦略的な支援となります。JACCSがベトナム、インドネシア、フィリピン、カンボジア、マレーシアに既に存在していることで、CARSOME Capitalが地域全体で金融事業を拡大するための強固な基盤が提供されます(CARSOME担当者)。
また、長期的なビジョンとしては、革新的な金融商品で東南アジアの成長する中古車産業をサポートする、東南アジアをリードする自動車ファイナンスプラットフォームになることを目指している。
JACCSもマレーシア以外の国々への展開を進める中で、「各国の市場特性を見極めながら、最適なビジネスモデルを構築していく」と述べており、マレーシアを越えた積極的な地域展開を視野に入れていることを示している。
またJACCSは、「東南アジア市場は国ごとにビジネス慣習が多様であり、それぞれの国の市場ニーズを的確に把握し、ローカライズを進めることが重要」と説明しており、CARSOMEと連携しながら市場・顧客分析を通じて正確にニーズを捉え、最適な金融商品の開発を目指す方針だ。
日本企業との更なる協業の可能性
CARSOMEはJACCS以外の日本企業とも協業を検討している。三菱UFJファイナンシャル・グループを含む日本の銀行とのエンゲージメントを探り、CARSOME Capitalの貸付能力を強化することを目指す。
また、CARSOMEのエコシステム内の他の事業分野での協業可能性も探っている。例えば、アフターセールス領域では、自動車メーカー、ディストリビューター、部品サプライヤーと統合されたファイナンスオプションを提供することも視野に入れている。
そして、CARSOMEは東南アジアにおけるモビリティのトレンドに対応した、車両保護プランの拡充や走行距離連動型保険(Usage-Based Insurance)の開発も検討している。
さらに、JACCSの親会社である三菱UFJファイナンシャル・グループとの関係を活用することで、より幅広い金融サービスへのアクセスを模索しており、CARSOME Capitalの資金調達手段を多様化することで、より競争力のある条件でのファイナンス提供を可能とし、最終的にはより多くのユーザーの利便性向上を目指している。
マレーシアから始まるこの戦略的パートナーシップは、地理的な広がりのみならず、新たな形の連携可能性を切り開くものだ。そうした機会の具体像はこれから明らかになっていくものの、確かなのは、このパートナーシップが東南アジア全体のオートモーティブファイナンス市場に新たな視点をもたらし、より多くの人々が「クルマを持つ」という夢の実現を後押しする、第一歩であるということだ。