
MUIP Innovation Day 2026のセッション「金融×生成AI:米国最新ユースケースと専門VCの視点」の後半では、米国スタートアップRelcuのCo-founderであるAbhijat Thakur氏が登壇し、同社が開発するエージェンティックプラットフォームのライブデモを実施した。
Abhijat氏は、CRMシステム、マーケティング自動化、パイプライン管理、コミュニケーションチャネル、与信審査システムなど、金融機関の断片化した「記録システム(System of Record)」を、AIを活用したCRMおよび「行動システム(System of Action)」へと変えるビジョンと、その具体的な実装例を披露した。これにより、顧客獲得率の向上や顧客維持、そしてクロスセルによる成長を実現することを目指している。
「System of Record」から「System of Action」へ——分断されたデータを行動に変える

金融機関は長年にわたり、CRM、プライシングエンジン、ローン組成(OS)システム、社内外コミュニケーション基盤、パイプライン管理など、多くのシステムを構築してきた。これらはデータの蓄積には優れているが、そのデータに基づいて自律的に行動する能力を持たない。
Abhijat氏はこの課題を「分断されたツール、サイロ化された顧客データ、そして結果として生じる成約機会の取りこぼし、既存顧客の流出、業務非効率、収益成長の停滞」と整理した。根本原因は、顧客ライフサイクル全体の可視性が極めて限定されていることにある。
Relcuのアプローチは、既存のコアシステムを置き換えるのではなく、その上にAIの実行レイヤーとして機能することだ。具体的には3つの層で構成される。
第1に、顧客の個人データ、取引データ、外部データを統合する「統合データレイヤー」。第2に、傾向スコアリングやNext Best Action(次善策)の判定を行う「AIインテリジェンスレイヤー」。そして第3に、実際にオムニチャネルコミュニケーションやAIエージェントを通じて顧客に働きかける「実行レイヤー」である。
これらの機能により、Relcuは単にデータを整理するだけでなく、リアルタイムでデータを次のアクションにつなげることができる。また、RelcuはAIエージェントをワークフロー(リード配分、プライシング、フォローアップ、顧客維持など)に直接組み込むことができ、エージェントが自律的に計画・判断・実行することができる。 従来のCRMは「何が起きたか」を教えてくれるが、Relcuは「次に何をすべきか」を判断し、それを実行することができるのだ。
私たちは、既存のコアシステムの上に成り立たせることが非常に重要だと考えています。システムを置き換えることを求めるのではなく、その上で機能するのです(Abhijat氏)。
連携先にはSalesforce、Databricks、Snowflakeなどが含まれ、各金融機関のガバナンスモデルに応じて、フラットファイルのアップロード、データウェアハウス連携、API接続など柔軟なデータ取り込み方式に対応している。
VoiceとSMS AIエージェントによる営業自動化

セッションのハイライトは、Abhijat氏による住宅ローン営業のライブデモだった。Abhijat氏がローンオフィサー「Sandra Williams」としてシステムにログインし、三菱UFJイノベーション・パートナーズのDeputy Chief Investment OfficerであるMayank Shiromaniが顧客役を務めた。
デモはまず、人間のローンオフィサーによる架電から始まる。
ローンオフィサー役のAbhijat氏がMayankに電話をかけ、現在7%の住宅ローン金利に対して6.5%のオプションを提案する。Mayankが6%以下になったら検討すると回答すると、ローンオフィサーは「レートウォッチ」に登録した。
通話終了と同時にリアルタイムで会話の書き起こしが生成され、AIサマリーが自動的に作成された。この一連のデータはすべてRelcuプラットフォーム内の一つの画面に統合される。
次のシナリオでは、FRBの利下げにより金利が顧客の希望水準を下回ったという設定だ。するとシステムはSMS AIエージェントを自動的に起動し、Mayankのスマートフォンにテキストメッセージを送信した。
Mayankが「興味がある。リファイナンスすべきだろうか」と返信すると、AIエージェントはリアルタイムで応答した。デモでは、Mayankが「ポケモンについて知っているか」というオフトピックなメッセージを送る場面もあった。
AIエージェントはポケモンの一般的な説明をしつつも、住宅ローンの話題に巧みにリダイレクトする。これはAIエージェントに設定されたルールと安全装置が機能している証拠だとAbhijat氏は説明した。
Voice AIエージェントとNext Best Action——完全自律営業への道筋

最終的にMayankが「ローンオフィサーにつないでほしい」とリクエストすると、AIエージェントはタスクキューにリードを作成し、ローンオフィサーの端末にタスクが表示される。
ローンオフィサーがそのリードを受け取ると、自動的に電話が発信され、AIエージェントとの会話履歴を含むすべてのコンテキストが引き継がれた。さらに、顧客がまだローンを組まなかった場合には、Voice AIエージェントが自動的に架電する仕組みも実演された。適切なタイミングでAIエージェントが顧客に電話をかけ、金利情報を提供し、人間のローンオフィサーへの転送を試みる。
最終的な目標は、これらすべてを完全に自律的に運営し、人間が顧客と話すべき最適な瞬間だけをAIエージェントにより浮かび上がらせることです(Abhijat氏)。
デモで特に注目を集めたのが「Next Best Action」機能だ。顧客とのすべてのコミュニケーション(音声、SMS)の履歴の要約に、取引データおよび外部サードパーティの顧客データを統合し、AIモデルが次にとるべき最善の行動を予測する。
Abhijat氏によれば、最近リリースされたこの機能に対する顧客からのフィードバックは「経験豊富なセールスオペレーターの判断と同等レベルの予測精度だ」というものだった。
導入の現実——28日で稼働開始、3つのROI指標で成果を証明

Relcuは現在、全米トップ10の住宅ローン事業者であるCardinal Financialに導入されている。同社は年間100億〜150億ドル規模の住宅ローンを取り扱い、コンシューマー、リテール、ホールセールの3部門で10種類のシステムを使用していた。Relcuは最初の1部門において、システムを28日間で稼働させた実績を持つ。
このスピードが推進力と信頼を生み、システムが実際に機能するという確信につながるのです(Abhijat氏)。
現場のワークフォース変革についてAbhijat氏は、金融機関との交渉で注力する3つのROI指標を示す。第1に収益成長、具体的にはロックレート(金利確定率)の向上。第2に業務効率、ローンオフィサー1人あたりのリード数・ローン件数の改善による人員最適化。第3にスピード、導入から稼働までの時間短縮である。
究極的には、本当に役立つプロダクトを作らなければなりません。AIのためのAIではなく、現場が抱える本当の問題を解決することで、ビジネスの成果を生み出すことが重要なのです(Abhijat氏)。
Abhijat氏は、テクノロジーが目標を実現できると信頼されれば、導入は加速すると述べる。成果の可視化が最大の推進力であり、結果が見えれば現場も組織も変革に前向きになるという見解で、モデレーターのMayankもこれに同意していた。